可変分解能モデルを用いた熱延鋼板冷却プロセスの予測制御

背景

近年, 地球温暖化対策として二酸化炭素排出量の削減が重要視されており, 自動車軽量化の観点から, 自動車用素材となる熱延鋼板の強度, 加工性の向上が求められている. 熱延鋼板の機械的性質は, 冷却時の温度履歴によって決まるため, より良い鋼板を製造するためには冷却プロセスの制御性能の向上が必要である.
制御性能の向上を図るため, 冷却プロセスでの温度制御にモデル予測制御と呼ばれる手法を適用する研究が進められている. しかしながら, これらの研究では, 鋼板の幅方向の温度を一定と仮定した冷却が行われており, 幅方向の温度分布を制御することはできない. 実際の熱延鋼板には, 幅方向にも温度ムラが存在するため, 幅方向の温度分布を考慮した制御を行うことで, さらなる制御性能の向上が見込まれる.
幅方向の温度分布を考慮すると, 従来手法と比較して, モデル次数が増加するといった問題が発生する. モデル予測制御の性質上, モデル次数の増加により, 制御入力の算出にかかる計算時間が爆発的に増加するため, 幅方向の温度分布を考慮しつつ, モデル次数の増加を抑える工夫が必要となる.

目的

本研究では,幅方向温度分布を考慮した熱延鋼板のモデル予測制御手法の提案を行う.
まず, 幅方向の温度分布を考慮したモデル予測制御を行うことで, 鋼板冷却の制御性能を向上させる. それに伴い, モデル次数の増加, 制御入力計算時間の増加といった問題が発生するため, 制御性能の低下を防ぎながら計算時間を削減する手法の提案を行う.

手法

本研究では,制御入力を算出する際の温度分布モデルとして, 可変分解能モデルを用いる.
可変分解能モデルでは, 図1に示すように, 離散化された3次元温度分布モデルを, より少ない次数で近似する. そのとき, 温度分布に従って, 幅方向のモデル分割数を可変にすることで, 効率の良い近似を実現し, モデル次数の削減を実現する.

可変分解能モデル

図1 可変分解能モデル

成果

本研究では, 以下の3つのモデルを用いたモデル予測制御による, 熱延鋼板の冷却シミュレーションを行った.
一つ目は, 図2に示す2次元温度分布モデルであり, このモデルは幅方向温度分布を一定と仮定したモデルである.

図2 2次元温度分布モデル

図2 2次元温度分布モデル

二つ目は, 図3に示す3次元モデルであり, 幅方向の温度分布も考慮したモデルである.

図3 3次元温度分布モデル

図3 3次元温度分布モデル

三つ目は, 図4に示す提案手法の可変分解能モデルであり, 幅方向の温度分布に従ってモデル分割を変更することで効率の良い温度分布の近似を行っている.

図4 可変分解能モデル

図4 可変分解能モデル

2次元温度分布モデルを用いた場合の, 鋼板の温度履歴を次に示す.

3次元温度分布モデルを用いた場合の, 鋼板の温度履歴を次に示す.

これらの結果より, 幅方向の温度分布を考慮した制御を行うことで, 制御性能が向上することが確認された.

可変分解能モデルを用いた場合の, 鋼板の温度履歴を次に示す.

可変分解能モデルを用いた場合でも, 3次元温度分布モデルを用いた場合と同様に, 幅方向温度分布を制御できていることが確認できる.
各モデルを用いた場合のモデル次数の推移を図5に示す.

図5 モデル次数の推移

図5 モデル次数の推移

このように, 可変分解能モデルを用いると, 3次元温度分布モデルを用いた場合とほぼ同等の制御性能を, 約1/5のモデル次数で実現できていることが確認できる.

関連論文

宇田川大二郎, 平田健太郎,
“可変分解能モデルを用いた熱延鋼板冷却プロセスの予測制御”,
第2回制御部門マルチシンポジウム,東京,551-2,2015/3/5